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2020-04-26

父との時間(4)

わたしたち兄弟は、子どものころから父や母のことを「おとうさん」「おかあさん」と呼んだことがない。「パパ」「ママ」も、もちろんない。

ずーーっとあだ名で呼んでいる。長い間続いたあだ名もあれば、それほど定着せずにいつの間にか次のあだ名に取って代わられてしまったものもある。新しいあだ名ができるのはいつも突然で、何気ない会話の中からピックアップすることが多い。たとえば、父がお風呂から上がってきたとき、髪がホワホワとしてまるでひよこみたいだったから「ひよ」。それからしばらくの間、父は「ひよ」とか「ひよちゃん」と呼ばれていた。

いまの父のあだ名は「ぼんちゃん」。これもかなり息が長くて、この名を使うようになってからかれこれ10年くらいになると思う。これも何かの拍子に突然生まれた呼び名だ。

父は今年の初めから入院していて、手術をしたりリハビリをしたりと何度か転院をしているのだけど、いつも主治医の先生や看護師さんに、「なんで”ぼんちゃん”っていうんですか?」と聞かれる。「なんでだったか忘れちゃったんですけど、なんとなくついたあだ名なんです。うち、父や母のことを子どものころからあだ名でしか呼んだことがなくて……」という説明を、今まで人に何度してきたかわからない。そして聞いてくれた人はみんな、「いいですね、お父さんをあだ名で呼ぶって」と言ってくださる。

これまでの歴代のあだ名の中でも、”ぼんちゃん”は一番いい名かもしれない。親しみやすいし、響きが可愛らしい。82歳のおじいさんに可愛らしさが必要かと問われれば、ちょっと答えに窮すけれど(笑)。

ぼんちゃん、コロナ禍を乗り越えて、またおもしろい出来事から新しいあだ名を作ろう。そして、そのあだ名を、”ぼんちゃん”よりも長く使えるほど長生きしてほしい。

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