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2019-05-15

けっして鏡は見ない

実家2階のわたしの部屋の隣には洗面所つきのトイレがあります。そこに鏡があり、便座に座ると真正面の鏡に自分の顔が映ります。元気なときはそんなこと気にも留めなかったのですが、アトピーがひどいときは、鏡にうつった自分の顔を見るのがほんとうにつらかったです。でも、どうしたって目に入るので、下を向いたままトイレに入り、下を向いたまま用を足して、下を向いたまま手を洗い、下を向いたまま部屋に戻る。絶対に鏡を見ることがないよう、細心の注意を払っていました。だったら鏡に紙でも貼っておいたらいいのでは?と思うかもしれません。でも、このわたしの気持ちは理解してもらえないかもしれませんが、そういったことは、いかにも自分がふつうの人とは違うということを強く認識させられるようでいやだったのです。アトピーという病気は、わたしの肌だけではなく、心まで異常なほど敏感にしてしまっていたのだと思います。

鏡さえ見なければゾンビのような自分の姿を見ずに済む、そう思っていました。実際は鏡を見ずとも、いやでも自分の肌は目に入ってくるのですが……。体をかくときというのは、背中などは別ですが、なぜかかいている場所をじっと見ながらかきむしるんです。たとえば腕。わたしの腕は、毎日毎日、何百回わたしにかきむしられたかわかりませんが、わたしはいつも、じっと自分の腕を凝視しながら、「どうしてこうもかゆいのだろう?」と不思議に思いながらかいていました。だって、ほとんど骨と皮のようになった細い腕の、どこにかゆみが入り込む余地があるのでしょう? 骨の上にボロボロの皮が被っているだけなんです。そのボロボロの皮膚を、力一杯かきむしらなくてはならないほど、強烈にかゆいのです。それはそれはすさまじいかゆみでした。いま思い出してもゾッとする、気が狂うほどのかゆみ……。自分でも、ほんとうに、よく気が狂わなかったものだなあ、と思います。

いまは、ほんとうに、肌がかゆくなることはありません。夏に蚊に刺されたりしたときはもちろんかゆいですが、アトピーのときのかゆみに比べたら、かゆいうちには入りません。わたしは、かゆみから完全に解放された時間を過ごしています。いま苦しんでいる方も、きっと、きっと、よくなります。どうか希望を捨てずにいまのつらい時間をしのいでください。

だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ。

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