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2019-04-05

カフェでお茶が”夢”になる

人目にさらされると(というのは大げさですが、アトピーの症状がひどいときは、ただ外出するだけでそんな気分になってしまいます)、とても緊張します。そして人目から解放されると、今度は緊張が溶けてかゆみが一気に襲ってきます。人前で体をかきむしるわけにはいかないので、無意識のうちにかくのを我慢していますが、一人になった瞬間、我慢していた分のかゆみまで、まとめてやってくるのです。

外出できるくらいのひどさならまだいいのですが、洋服を着ることもできない、家から一歩も出られなかった最悪のとき、わたしの顔はわたしとは認識できないような状態になっていました。腫れぼったくて、ハリはなく、薄い皮膚のすぐ下に水が溜まっているような感じ。たとえるなら、水分を抜いた木綿豆腐、あるいは古くなったウォーターベッドのようです。目はほとんど開かず、眉は抜け、口を大きく開けると口角にピッと亀裂が入って痛いので、なるべく口を開かなくてもいいように、そんなときは薄いクラッカーなどを食べていました。

アトピーを発症する前、わたしはとても元気でした。いえ、体のなかは徐々に悪くなっていたと思いますが、自分では元気だと思っていました。だから、一人でどこにでも行くことができました。学生のころは知人や友人のいるアメリカに行くことが多く、働き出してからも、仕事を休んで1ヶ月スペインを旅したりしていました。時間とお金があれば行かれないところはないと思っていたのです。でも、それは大きな間違いで、一人旅ができたのはわたしが心身ともに健康だったから。そんな、あたりまえだと思っていたことが、できなくなる日が来るなんて……。

服を着て外に出ることができなくなったわたしにとって、近所に買い物に行くことさえ、なにか、自分とはかけ離れたことのように思えました。そのときのわたしの願いは、”カフェでお茶すること”。元気なときは毎日のようにしていたことが、まさか”夢”になってしまうなんて……。

元気であるということは、自由であるということ。健康を失ったわたしは、同時に自由も失い、そのうえ家族に面倒をみてもらわなければ生きられない自分が情けなくて、痛みやかゆみと心の苦痛に、毎日押しつぶされそうな思いでした。

あのときの自分にもし話しかけることができたら、こう言ってあげたい。

「アトピーはたいへんだね。かゆみや痛みで毎日死ぬ思いでしょう。それだけでもつらいのだから、自分のことを情けないとか、生きてる価値がないとか、そんなふうに思うのはやめたほうがいいよ。自分で自分の苦しみを増やさないこと。助けてくれる家族がいてよかった! 病気はいやだけどわたしってツイてる! 感謝しつつ、甘えよう。つらいけど、なるべく気楽にね。きっと元気になる。だいじょうぶだよ」

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