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2019-03-02

孤独な夜

ときどき、夜眠れないことがあります。

眠くて眠くてしかたなくて布団に入るのに、なぜか眠れない。そんなとき、アトピーで苦しかった日々のこと、特に孤独だった夜のことを思い出します。
 
わたしのアトピーは、それはそれはひどくて、ほとんど皮膚が皮膚として機能していない状態でした。
アトピーと聞くと、ただ肌がカサカサしてかゆくなる皮膚の病気だと思う人が多いと思います。でも実際は、カサカサでかゆいという症状は、アトピーという根深く、手強く、とてつもない苦悩のほんの数パーセントのことだと、わたしは思います。
 
かゆい、というのはほんとうにつらいものです。
痛いのもつらいけれど、痛いのは動かずにいることができます。でもかゆいとかかずにはいられないので、じっとしていることができないのです。つねに体の複数の箇所がかゆいから、休ませてもらえない。
 
その状態が、一瞬の休憩もなく24時間続きます。眠らせてももらえません。もちろん少しは眠っているのですが、眠りに落ちるのは、体をかきむしり疲れて、体力が限界に達したときだけです。眠いから寝よう、というのはありえない。どんなに眠くても、眠気がかゆみに勝ることはないからです。かゆみは、体が必要としている眠りを遠ざけ、限界が訪れるまで、わたしはつねに覚醒していることになるのです。
 
昼も夜もなくわたしを占拠していたかゆみと痛みですが、昼間はまだ世の中が動いているので少しは気が紛れます。
でも、夜は……。
それはそれは、孤独でおそろしい時間でした。
 
月も星も出ていない真っ暗闇の森に、一人放り出されたような気持ち。心細くて不安でこわくて……。
何も見えない、助けもこない、自分が生きているのかさえよくわからないし、生きているのだとしたら、生きていることを呪いたくなるような、そんな、絶望に満ちた暗黒の夜。絶望に”満ちた”というのはおかしな表現ですが、希望というものが少しも入り込む余地のないほど、わたしの夜はつらいものでした。
 
”希望をもつなんて簡単。道具も何もいらないんだから、ただ心のなかに希望をもてばいいだけじゃない”。
元気だったらそんなふうにも思えるけれど、あのときのわたしには、そんなこと思えなかったし、希望という言葉を思い起こすことさえむずかしかった。
 
でもいまは、だいじょうぶ。
ほとんどの夜はぐっすり眠れていますし、どこもかゆくないし、痛くもありません。
かゆみも痛みもない体がどれほどありがたいものか……。
 
いままさに苦しんでいる方が、どこかにいらっしゃるかもしれません。
でも、きっとよくなります。
いまはつらいけれど、きっときっとよくなります。
 
今日も心おだやかに過ごせますように……。
だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ。
 
photo courtesy : Jim Lafferty
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