こころをヤスリで削っていた日々
わたしのアトピー発症は、知らないうちに自分でよくない習慣をコツコツと積み上げてしまった結果ではあるのですが、最初のうちはその事実を受け止めることができませんでした。
わたしのアトピーは、まぶたのかゆみから始まりました。長い髪を短く切った直後だったので、髪が顔にかかってそれが肌を刺激してかゆくなったのだと思っていました。それまではずっと、前髪も一緒に、いつもうしろで一つに束ねていたので、髪が顔にかかるということはなかったのです。
もしそれが原因だったら、髪が触れなければかゆくならないということになりますが、髪が触れないようにしても、かゆみはなくならず、それどころかかゆみと赤みはどんどん広がっていくばかり……。でも、いまはちょっと調子が悪いだけで、まさかそれが8年間の地獄の始まりだとは、夢にも思っていませんでした。こんなのすぐに治るだろうと、タカをくくっていたのです。
よくならないので、焦ったわたしは、仕事を通して知っていたエステティシャンのところへ行ってみました。アトピーの人のケアをしているということを聞いていたからです。彼女が開口一番わたしに言ったことは、「治るまでに2年はかかりますので、覚悟してください」。
わたしは、冗談じゃない!と思いました。長くても数ヶ月で治る、いや、治す、と思っていたからです。2年かかると言われてショックを受けたのと同時に、その方に対して少しいやな気持ちも抱きました。「あなたに、アトピーの何がわかるというの? 何を根拠に2年だなんて言うの?」と。
結果的には、彼女の予言は正しかった。というか、結局、治るまでに彼女の見積もりの4倍ほどの時間がかかったわけですが…。
それからわたしの顔はみるみるその様を変えていきました。まぶたがカサカサして、カサカサすると弾力がなくなるので目があまり開かなくなってきます。赤みが出て、それが首などにも広がり、ついには体にまで……。あっという間に一目でアトピー患者とわかるほどひどくなってしまったのです。
かゆみや外見の変容、そして何よりも精神的なショックが大きかったのをよく覚えています。アトピーは容赦のない身体的な苦しみに加え、自分が自分でなくなっていくような、まるでヤスリでこころを削られるような精神的痛みを伴います。強くいたいのに強くいられない。笑いたいのに笑えない。そんな自分に嫌悪感が日々増していき、自分で自分をこれでもかと苦しめていた。自分をこんな人にしてしまった自分のことを、わたしは許せなかったのです。もしもいま、そんな気持ちを抱えている方がいたら、どうかほんの少しでもいいのでご自分のこころを優しく撫でてさしあげてください。どうか自分を痛めつけないで。
だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ。
Photography by Melina Hammer
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